「頑張ること」は、これまで日本社会において最も美徳とされてきた価値観のひとつです。
「努力すれば報われる」「寝る間を惜しんで働く人が偉い」——そんな言葉を耳にして育った人も多いでしょう。
しかし、令和の時代に入り、働き方や価値観が大きく変化する中で、“頑張りすぎる”ことのリスクが見直され始めています。
経営においても同じです。今、注目されているのは「頑張りすぎない経営」。
力を抜くことを“怠け”とせず、むしろ持続可能なビジネスの鍵として捉える新しいスタンダードが広がっています。
“頑張りすぎない経営”
「頑張りすぎ」は経営のブレーキになる
経営者は誰よりも努力家です。
自分の会社、チーム、社員、そしてお客様のためにと、常に走り続ける。
しかし、その「止まらない努力」が、いつの間にか経営のブレーキになることがあります。
たとえば、
・常に新しいことに挑戦し続けて疲弊してしまう
・自分が動かないと不安で、業務を手放せない
・「もっと、もっと」と欲を出して本来の目的を見失う
こうした状態では、経営者自身の判断力や創造力が鈍り、組織全体にも緊張が伝わります。
頑張り続けることは立派ですが、同時に「立ち止まる勇気」を持たないと、知らぬ間に自分の首を絞めてしまうのです。
“力を抜く”ことが最大の成果を生む
スポーツの世界でも同じですが、全力で力を入れ続けると、パフォーマンスはむしろ落ちます。
良いプレーをするには「余白」や「ゆとり」が必要です。
経営もまったく同じです。
たとえば、
・意思決定の前に一晩寝かせて考える
・社員の意見を待つ時間を設ける
・「今すぐやらなくていいこと」を意図的に増やす
こうした“ゆとり”が、長期的な視点や新しい発想を生み出します。
頑張りすぎない経営とは、「今の力を100%出す」ことではなく、「必要なときに最大の力を出せる状態を保つ」こと。
つまり、“余白を戦略的に設計する”経営なのです。
「サボる」と「休む」は違う
多くの経営者が「休む=サボる」と捉えがちです。
しかし本来、「休む」とは“再起動”のための時間。
人も組織も、ずっと全力では動けません。
たとえば、
・週末は意識的にスマホをオフにする
・1日に“何もしない時間”を15分だけ確保する
・社員にも「頑張らない時間」を制度化する
これらは一見、生産性を下げるように見えて、実はその逆。
人間の集中力は有限であり、回復の仕組みを持つことが本当の意味での“経営力”なのです。
頑張りすぎない組織は「人が育つ」
経営者が常に全力で走っている会社は、社員が安心して力を発揮できないことが多いものです。
「社長がこんなに頑張っているのに、自分が休むなんて…」
そんな空気が生まれると、組織全体が疲弊してしまいます。
逆に、経営者が“ゆとり”を持っている組織では、社員が自分で考え、判断し、動けるようになります。
なぜなら、「社長がすべてを抱えない」という姿勢が、“任せる文化”を育てるからです。
頑張りすぎない経営とは、“自分だけが頑張らない”のではなく、“みんなで頑張りすぎない仕組み”をつくること。
それが、長く続く組織を育てる鍵です。
これからの時代に必要なのは「持続可能な頑張り方」
人口減少、人材不足、働き方改革、AIの進化——。
これからの時代、経営者に求められるのは「頑張り方を変える力」です。
短期的な成果よりも、長期的に続く仕組みをどう築くか。個人の能力に頼るのではなく、チームのリズムを整えること。
「頑張り続ける」よりも、「頑張れる状態を保ち続ける」ことが、経営者としての新しいスタンダードです。
「頑張らない」は、逃げではなく戦略 | まとめ
“頑張りすぎない経営”は、決して逃げでも怠けでもありません。
それは、「力を使う場所を選ぶ」という戦略的な判断です。
無理をして燃え尽きるよりも、続けられる形で挑戦し続ける。それこそが、今の時代に最も強い経営スタイル。
経営とは、長距離走です。
ペースを落とす勇気、止まる勇気、休む勇気。
そのすべてが、次の一歩を強くするエネルギーになります。