「好きなことを仕事にしよう」「嫌なことはやめよう」
近年、SNSや自己啓発の世界ではこのようなメッセージをよく目にします。
一見、同じ意味のようにも感じられますが、実は「好きなことだけやる」と「嫌いなことをやらない」はまったく違う考え方です。
前者は“主体的な選択”であり、後者は“回避的な選択”。
この違いを理解することが、長く楽しく働き続けるための鍵になります。
好きなことだけやると嫌いなことをやらないは違う
「好きなことだけやる」は“創造”で、「嫌いなことをやらない」は“防衛”
「好きなことだけやる」というのは、自分の好奇心や情熱を中心に、仕事や生き方をデザインしていくということです。
自分の得意分野を伸ばし、価値を生み出す方向にエネルギーを注ぐ姿勢。これは、積極的で前向きなアプローチです。
一方、「嫌いなことをやらない」というのは、自分を守るための選択です。
ストレスや不満を避けるために、一定の線を引く。これも決して悪いことではありませんが、どちらかといえば“防衛的”なスタンスです。
前者が「未来を創る選択」なのに対し、後者は「現状を守る選択」。
どちらも必要ですが、人生やキャリアを豊かにするのは、やはり“好きなことを広げていく”前者の姿勢なのです。
「嫌いなことをやらない」と決めるには、まず“嫌い”を知る必要がある
とはいえ、「嫌いなことをやらない」と言っても、実際に何が嫌いなのか明確でない人も多いはずです。
嫌いなことは、実は「自分の価値観が明確になるサイン」でもあります。
たとえば、
・無駄な会議が嫌い → 時間を大切にしたい人
・表面的なつき合いが嫌い → 本音で関わりたい人
・数字だけを追う仕事が嫌い → 意味や想いを重視する人
このように“嫌い”の裏には、必ず“本当はこうありたい”という理想が隠れています。
つまり、「嫌いなことをやらない」とは、自分の軸を明確にするプロセスでもあるのです。
嫌いなことを手放すことで、エネルギーを浪費せず、本当にやりたいことに集中できるようになります。
「好きなことだけやる」は、意外と地道な積み重ね
「好きなことをやって生きる」と聞くと、自由で楽しそうなイメージを持つ人が多いでしょう。しかし、実際には“好きなこと”ほど努力が必要です。
なぜなら、好きなことを仕事にすると、次第に「結果を出さなければならない」というプレッシャーが伴うからです。
たとえば、音楽が好きでプロを目指した人が、思うように売れずに苦しむ。絵が好きでフリーランスになった人が、依頼が来なくて不安を感じる。
こうした現実は決して少なくありません。
「好きなことだけやる」生き方には、“好き”を支えるための地道な努力が欠かせません。
それでも続けられるのは、「好き」が単なる娯楽ではなく“自分の軸”だから。だからこそ、困難があっても続けられるのです。
「嫌いなことをやらない」には、勇気と責任がいる
一方、「嫌いなことをやらない」生き方も、簡単ではありません。多くの人が「嫌なことだと分かっていても辞められない」状況にいます。
職場の人間関係、収入の不安、社会的な期待。そうした要素が、嫌いなことをやめる決断を鈍らせているのです。
だからこそ、“やらない”を選ぶには勇気がいります。その代わり、自分で選んだ以上は「責任」も伴います。
たとえば、「会社を辞めてフリーランスになる」と決めたなら、自由と引き換えに、すべてを自分で決断しなければなりません。
つまり、「嫌いなことをやらない」とは、単なるわがままではなく、“自分の人生に責任を持つ”という覚悟の表れでもあるのです。
両者のバランスが、人生を軽やかにする
「好きなことだけやる」と「嫌いなことをやらない」。
この二つは対立する考えではなく、実は両輪です。
嫌いなことを減らすことで、心の余白が生まれます。その余白に、好きなことを広げていく。
この循環がうまく回ると、ストレスの少ない働き方と、創造的な仕事の両立が可能になります。
つまり、「嫌いなことをやらない」は“心の整理”であり、「好きなことだけやる」は“未来の設計”なのです。
前者がスペースをつくり、後者がそのスペースを豊かにしていく、この関係性こそ、持続可能な生き方のヒントです。
本当の自由とは、「選べる状態」にあること
自由とは、なんでもできる状態ではなく、“自分で選べる状態”のことです。
「好きなことをやる」も、「嫌いなことをやらない」も、その自由を得るための選択です。
大切なのは、どちらか一方に偏らないこと。
嫌いなことを減らしながら、好きなことを少しずつ増やしていく。
その積み重ねが、自分らしい働き方と人生を形づくります。
結局のところ、「好きなことだけやる」と「嫌いなことをやらない」は対立ではなく、補完関係です。
どちらも“自分を大切にする”という一点でつながっています。
「何をやるか」よりも、「何をやらないか」を選びながら、“好き”を軸にした働き方をデザインしていく。それこそが、これからの時代に必要な「自分主導の生き方」ではないでしょうか。