日本の中小企業経営者の多くが、年末になると口にする言葉があります。「今年は税金が高くなりそうだから、経費を増やして節税しよう。」
確かに、税金を抑えることは経営上のひとつのテクニックです。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
「節税」と「再投資」は似て非なるものであり、前者を優先するほど成長のチャンスを逃してしまうのです。
節税よりも“再投資”を重視する人が伸びる理由
節税は「支出」、再投資は「成長」
節税のために経費を使う行為は、一見すると賢く見えます。
しかし、よく考えてみましょう。
節税とは「お金を使って税金を減らす」行為です。たとえば、100万円の利益に対して30万円の税金がかかるとして、「税金がもったいない」と思って100万円の経費を使えば、確かに納税額はゼロになります。
けれども、手元のお金もゼロです。
一方で、再投資は「お金を使って利益を増やす」行為です。同じ100万円を新しい設備、人材、マーケティング、商品開発などに投資することで、翌年に200万円、300万円のリターンを生む可能性があります。
つまり、節税は“守り”の支出、再投資は“攻め”の支出。
見た目は同じ「お金を使う」でも、未来への影響はまったく異なるのです。
「節税マインド」が成長を止める理由
節税を第一に考える経営者の多くは、数字を「減らすこと」に意識が向きます。
「利益を出すと税金が増える」
「人を雇うと社会保険料がかかる」
「売上を上げると消費税が重くなる」
このように、“成長=負担が増える”という思考に陥ると、無意識のうちにブレーキを踏むようになります。
その結果、
・投資のタイミングを逃す
・人を育てる余裕がない
・規模を拡大する勇気が出ない
という“縮小均衡”の経営に陥るのです。
成長企業の経営者たちは、この逆を考えています。
「税金が増えるのは、それだけ利益を出せた証拠」
「税金を払える企業こそ、社会から信頼される」
「税金を恐れるより、利益を増やす方に頭を使う」
このマインドの違いが、数年後には大きな差を生むのです。
税金を“コスト”ではなく“成果の証”と捉える
税金は、経営者の多くにとって「痛み」を伴うものです。
しかし、その痛みを“避ける対象”にするか、“成果の証”として受け止めるかで、経営の質が変わります。
たとえば、年商が伸び、利益も増えれば、当然税金も上がります。
でも、それは「しっかり利益を生み出せている証拠」。
むしろ、黒字企業として金融機関からの信用が高まり、融資のチャンスも広がります。
また、税金をしっかり納めている会社ほど、取引先や社員からも信頼されやすい。
つまり、税金とは「企業が社会に貢献している証拠」であり、それ自体がブランド力になるのです。
節税を目的にして不自然な支出を増やすより、正々堂々と利益を出し、納税し、その上でさらに事業を拡大していく。
それが、長期的に見て最も“得をする”経営の形です。
再投資の優先順位を決める
とはいえ、「再投資」といっても、やみくもにお金を使えば良いわけではありません。
大切なのは、「どこに投資すれば、未来の利益につながるか」を明確にすること。
おすすめの考え方は、次の3ステップです。
自己投資
まずは経営者自身のスキルや視点を磨くこと。
セミナー参加、書籍、コーチングなど、「思考の質」を高めることは、どんな投資よりも高いリターンを生みます。
仕組み投資
次に、業務効率化や自動化につながるシステムやツール。
これは一時的な支出に見えても、長期的には「時間」という最大の資産を生み出します。
ブランド投資
最後に、顧客との信頼関係を強化するブランディングや広報活動。
すぐに成果は出ませんが、中長期的には価格競争から脱し、安定した売上基盤を築けます。
再投資とは、未来に“価値を残すお金の使い方”です。
それを意識的に選ぶことが、成長する経営者の共通点です。
“税金を払ってでも投資する”覚悟が差をつける
経営は「支出を減らす競争」ではなく、「価値を生む競争」です。
たとえ税金が増えても、再投資によって事業がスケールすれば、手元に残るお金も増えていきます。
一方、節税ばかりに意識を取られて投資を止めれば、売上も利益も頭打ちになり、結局は“節約しても貧しくなる”経営になります。
成長している経営者ほど、こう言います。
「税金を払えるようになったのは、ありがたいこと。」
「払った分以上に、次のステージで取り返せばいい。」
この“攻めのマインド”こそが、長く伸び続ける人の共通項です。
お金を“守る”より、“回す”
最後にもう一度、原点に立ち返りましょう。
お金は「使うためにある」のではなく、「回すためにある」。
節税はお金を止める行為。再投資はお金を循環させる行為です。
経営者が意識すべきは、“減らすこと”ではなく、“増やす仕組みを作ること”。
未来を見据えた再投資は、単なる支出ではなく、「会社の成長エンジン」そのものです。
節税に安心するより、再投資にワクワクできる経営者こそ、これからの時代を力強く生き抜いていくのです。