多くの経営者が抱える悩みのひとつに「固定費のプレッシャー」があります。
家賃、人件費、システム利用料、広告費など、毎月必ず出ていくお金を見て「これだけ支出があるのに、本当にやっていけるのか?」と不安を感じたことのある人は多いでしょう。
特に小規模事業や個人経営では、「固定費=リスク」と捉え、極限までコストを削減しようとする傾向があります。
しかし実は、この“固定費恐怖症”こそが、事業の成長を止めてしまう最大の要因でもあるのです。
“固定費恐怖症”を乗り越えるお金の考え方
「固定費=悪」ではない
固定費を悪と考えるのは、家計簿的な発想に基づいています。
たしかに、個人の家計であれば「支出を減らす=貯金が増える」ですから、コスト削減が正解です。
しかし、事業経営においては「お金は使うことでリターンを生む」という構造になっています。
つまり、固定費を“減らす”ことが目的になってしまうと、成長のための投資機会を失うのです。
たとえば、スタッフを雇うことも固定費ですが、それによって自分の時間が生まれ、売上アップにつながる施策に集中できるなら、それは「支出」ではなく「投資」です。
また、ホームページの維持費や広告費も、顧客との接点を作るための“生きたコスト”です。
本当に危険なのは、固定費そのものではなく、「固定費を怖がって、必要な投資まで止めてしまうこと」なのです。
“固定費恐怖症”の正体は「見通しのなさ」
では、なぜ経営者は固定費を恐れてしまうのか?
その理由はシンプルで、「お金の流れが見えていない」からです。
今月の支出がどれくらいで、来月の入金がどれくらいなのか。
3か月後にキャッシュがどれくらい残るのか。
これを“感覚”ではなく“数字”で把握できていないと、固定費は常に不安の種になります。
逆に言えば、未来のキャッシュフローが見えていれば、不安はかなり軽減されます。
たとえ今月赤字でも、「来月には契約が入る」「半年後には黒字転換できる」という見通しが立っていれば、固定費を前向きに捉えることができるのです。
だからこそ、経営者に必要なのは“節約思考”ではなく、“予測思考”です。毎月の支出と入金のサイクルを把握し、3か月先、半年先のキャッシュ残高を予測する。
この「お金の地図」を持つことが、固定費恐怖症を克服する第一歩になります。
“余裕資金”ではなく、“攻めの資金”を
多くの経営者は「とりあえず貯めておこう」という発想で資金を守りたがります。
もちろん、手元資金の確保は重要です。ですが、常に“守り”に入っていては事業は伸びません。
固定費を「リスク」と見るのではなく、「攻めのためのコスト」として捉えることが大切です。
たとえば、
オフィスを少し広くして、スタッフの生産性を上げる
広告を強化して、より多くの顧客と出会う
外注費を使って、自分がしかできない仕事に集中する
これらはすべて“固定費アップ”に見えますが、実際には“売上を生み出す装置への投資”です。
経営とは、単にお金を減らさないことではなく、「お金をどう循環させるか」のゲームです。
固定費を最小限に抑えすぎて、循環が止まってしまえば、売上も止まります。
「回収のシナリオ」を持てば、固定費は怖くない
固定費を増やすときに重要なのは、「どう回収するか」というシナリオを明確に描くことです。
たとえば、新しい人材を雇うなら「その人がどのタイミングで利益を生み出すのか」。
新しいツールを導入するなら「どれくらい業務効率が上がるのか」。
それを“数値化”しておくことで、固定費は「怖い支出」ではなく「計画的な投資」に変わります。
さらに、この“回収シナリオ”を月単位で検証し続けることが、経営の安定化を生みます。「思ったより成果が出ない」と感じたら、その固定費の使い方を見直す。
逆に「十分なリターンがある」なら、さらに投資を強化する。こうした「固定費のPDCA」を回せる経営者は、不況でも強いのです。
恐怖ではなく、戦略として“固定費”を使う
結局のところ、固定費は“悪”でも“善”でもありません。それをどう設計し、どう回収していくかという「戦略の問題」です。
恐れて削る経営から、戦略的に活かす経営へ。
「この固定費は、未来の利益を生む仕組みを作るためのコストだ」と考えられるようになったとき、経営者の視界は一気にクリアになります。
固定費恐怖症を乗り越えるとは、単に支出を恐れなくなることではありません。お金に対して“主体的に向き合える自分”になること。
それこそが、経営者としての本当の成長であり、次のステージに進むための鍵なのです。