「コーポレートアイデンティティ(CI)」と「ブランディング」という言葉は、企業の広報やマーケティング、経営戦略に携わる方であれば一度は耳にしたことがあるでしょう。しかしながら、これらの用語の意味や使い方、そして両者の違いについて、明確に説明するのは意外と難しいものです。
特に広報担当者の中には、「CIとブランディングの違いがよく分からない」「どちらも企業の“イメージづくり”に関係しているようだけれど、具体的にどう使い分けるべきなのか判断がつかない」といった悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
実際、CIとブランディングは似たような領域を扱っているものの、その定義や目的、アプローチには明確な違いがあります。そして、この違いを正しく理解することは、企業が発信する情報やビジュアル、メッセージの一貫性を保ち、社会や顧客との信頼関係を築くうえで非常に重要です。
この記事では、CIとブランディングの明確な定義、それぞれの目的について解説します。
コーポレートアイデンティティ(CI)とは?定義と3つの要素
1. CIの定義を分かりやすく解説
CIとは、企業が持つ個性や独自性を明確化し、社内外に一貫したイメージを伝えるための経営戦略です。日本語では「企業理念識別」と訳されます。CIを確立することで、企業は社会からの信頼獲得、ブランドイメージの向上、従業員のモチベーション向上などを目指します。CIは単なるロゴやデザインの統一ではなく、企業の根本的な理念に基づいた、包括的な取り組みです。
CIは、経済産業省のウェブサイトでもブランド戦略の一環として紹介されており、企業の価値向上に繋がる重要な要素として認識されています。
2. CIを構成する3つの要素:理念(MI)、行動(BI)、視覚(VI)
CIは、主に以下の3つの要素で構成されます。
要素 | 名称 | 内容 | 具体例 |
---|---|---|---|
MI | Mind Identity (理念識別) | 企業の存在意義や価値観、目指す姿を定義したもの。企業活動の根幹となる部分。 | 経営理念、社是、企業ビジョン、行動指針など |
BI | Behavior Identity (行動識別) | MIに基づいた、企業の具体的な行動規範。従業員の行動や、顧客に対するサービス、社会貢献活動などが含まれる。 | 顧客対応マニュアル、社内研修、コンプライアンス規定、環境への取り組みなど |
VI | Visual Identity (視覚識別) | 企業イメージを視覚的に表現したもの。MI、BIを視覚的に具現化することで、社内外に分かりやすく伝える役割を持つ。 | ロゴマーク、コーポレートカラー、ブランドキャラクター、ウェブサイトデザイン、名刺デザイン、制服など |
これらの3つの要素は相互に関連し合い、三位一体となってCIを形成します。MIが企業活動の根幹となり、BIはMIを具体的な行動に落とし込み、VIはMIとBIを視覚的に表現することで、社内外にCIを浸透させます。例えば、環境問題への意識が高い企業であれば、MIに環境保護を掲げ、BIとして具体的な環境保全活動を行い、VIとして自然をイメージしたロゴマークやグリーンを基調としたデザインを採用する、といった具合です。これらの要素が一貫性を持つことで、企業イメージの統一化が図られ、企業の信頼性向上に繋がります。
ブランディングとは?定義と目的
ブランディングとは、企業や商品・サービスに対して、顧客の心の中に特定のイメージや価値観を植え付け、選ばれる存在にするための活動全体を指します。単なるロゴやデザインの作成だけでなく、マーケティング、広告、広報、顧客体験など、あらゆる企業活動がブランディングに影響を与えます。 ブランドを構築することで、顧客ロイヤリティの向上、価格競争からの脱却、新規顧客の獲得など、様々なメリットが期待できます。
1. ブランディングの定義をシンプルに解説
ブランディングとは、顧客の頭の中に、自社ならではの価値やイメージを明確に印象づけるプロセスです。製品やサービスの品質はもちろんのこと、企業文化、顧客体験、社会貢献活動など、あらゆる要素がブランドイメージを形成します。一貫性のあるメッセージを発信し続けることで、顧客との長期的な信頼関係を築き、持続的な成長を目指します。
2. ブランディングの目的と目指すもの
ブランディングの目的は、企業や商品・サービスの価値を高め、競合他社との差別化を図ることです。最終的には、顧客に選ばれ続け、持続的な成長を実現することを目指します。主な目的として下記が挙げられます。
目的 | 説明 |
---|---|
認知度の向上 | 市場における存在感を高め、より多くの顧客に知ってもらうことを目指します。 |
好意度の向上 | 顧客から愛され、選ばれるブランドになることを目指します。 |
ロイヤル顧客の獲得 | 繰り返し購入してくれる、熱狂的なファンを獲得することを目指します。 |
価格競争からの脱却 | ブランド価値を高めることで、価格ではなく価値で選ばれる存在を目指します。 |
企業価値の向上 | ブランドの構築は、企業全体の価値向上に繋がります。 |
これらの目的を達成するために、ターゲット顧客を明確に設定し、彼らのニーズやウォンツに合わせたブランド戦略を策定することが重要です。例えば、若年層向けのブランドであれば、SNSを活用した情報発信やインフルエンサーマーケティングが有効な手段となるでしょう。一方、高所得者層向けのブランドであれば、高級感のある広告展開や質の高い顧客サービスが重要になります。
コーポレートアイデンティティとブランディング | まとめ
コーポレートアイデンティティ(CI)とブランディングは、いずれも企業の「イメージづくり」に関わる重要な概念ですが、それぞれの定義や目的、アプローチには明確な違いがあります。CIは企業の根幹にある理念や行動、視覚的要素を通じて一貫した企業像を内外に伝えるための戦略であり、主に「企業としてどうありたいか」を示すものです。一方でブランディングは、顧客の心に自社の価値やイメージを定着させ、「市場でどう見られ、どう選ばれるか」を重視する活動です。
これらを正しく理解し、目的に応じて適切に使い分けることで、社内外の認識の統一を図ると同時に、顧客との信頼関係を築き、長期的な企業成長につなげることができます。CIとブランディングを効果的に活用し、他社との差別化を図ることで、今後ますます競争が激化する市場環境においても、確かな企業価値を築いていくことができるでしょう。