新卒の給与アップが話題になっていますが、企業の人材確保はなぜ難しいのでしょうか?
この記事では、新卒給与アップの現状、人材不足の深刻な理由・原因をデータに基づいて解説します。
有効求人倍率の上昇や業界別の採用難、企業規模による採用の格差など、人材不足の実態を把握できるでしょう。
1. 新卒給与アップの現状
近年、新卒の給与は上昇傾向にあります。これは、企業の人材確保のニーズの高まりを反映しています。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、2023年7月時点の大卒初任給の平均は24万5000円となっています。この傾向は、特にIT業界や金融業界といった専門性の高い職種で顕著です。
1.1 新卒の平均給与の推移
新卒の平均給与は、バブル崩壊後、長らく低迷していましたが、2010年代半ば頃から上昇に転じています。特に、近年は人材不足の深刻化を受けて、上昇ペースが加速しています。
以下の表は、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」に基づく、大卒初任給の推移です。
年度 | 平均給与(円) |
---|---|
2019年 | 210,200 |
2020年 | 212,200 |
2021年 | 220,000 |
2022年 | 230,000 |
2023年 | 245,000 |
1.2 職種別の給与の違い
新卒の給与は、職種によって大きく異なります。一般的に、専門性の高い職種ほど給与水準が高い傾向にあります。例えば、ITエンジニアやコンサルタントなどは、他の職種に比べて高額な給与が提示されることが多いです。一方で、営業職や事務職などは、比較的給与水準が低い傾向にあります。
1.3 地域別の給与の違い
新卒の給与は、地域によっても差があります。一般的に、大都市圏ほど給与水準が高い傾向にあります。これは、大都市圏には企業が多く、人材の需要も高いためです。地方都市では、大都市圏に比べて給与水準が低い傾向にあります。特に、地方の中小企業では、人材確保の難しさから、給与を上げたくても上げられないという状況も少なくありません。
2. 人材不足の深刻な現状
日本は深刻な人材不足に直面しており、多くの企業が採用活動に苦労しています。この人材不足の現状を、様々な指標から見ていきましょう。
2.1 有効求人倍率の上昇
厚生労働省が発表している有効求人倍率は、求職者1人に対する求人数の割合を示す指標です。近年、この有効求人倍率は上昇傾向にあり、2023年7月には1.52倍に達しています。これは、求職者1人に対して1.52件の求人があることを意味し、売り手市場の状態が続いていることを示しています。
特に、ITエンジニアや建設作業員、看護師などの専門職は慢性的な人材不足に陥っており、高い有効求人倍率となっています。
2.2 業界別の採用難
人材不足はすべての業界で一様に深刻化しているわけではなく、業界によって状況は大きく異なります。特に、IT業界、建設業、医療・福祉業界などでは深刻な人材不足が続いています。これらの業界は、専門的なスキルや知識が求められるため、人材の育成に時間がかかることが一因となっています。また、労働環境の厳しさや待遇面での課題も、人材不足に拍車をかけていると考えられます。
業界 | 人材不足の状況 |
---|---|
IT業界 | DXの進展に伴い、システムエンジニアやプログラマーなどの需要が急増。慢性的な人材不足に陥っている。 |
建設業 | 高齢化による退職者の増加や、若年層の入職が少ないため、深刻な人材不足となっている。 |
医療・福祉業界 | 高齢化社会の進展に伴い、看護師や介護士などの需要が増加。労働環境の厳しさも人材不足の一因となっている。 |
運輸・郵便業 | EC市場の拡大による物流需要の増加に対し、ドライバー不足が深刻化している。 |
2.3 企業規模による採用の格差
人材不足の影響は、企業規模によっても異なっています。一般的に、大企業に比べて中小企業は採用活動で苦戦を強いられる傾向にあります。これは、大企業の方が知名度が高く、待遇面でも優れていると 認識させているため、求職者に選ばれやすいことが理由の一つです。また、採用活動にかけられるリソースの差も、採用格差につながっていると考えられます。中小企業は大企業に比べて採用活動にかけられる費用や人員が限られているため、効果的な採用活動を行うことが難しいという現状があります。
このような採用格差は、中小企業の事業継続を脅かすだけでなく、日本経済全体の成長を阻害する要因にもなりかねません。
3. 人材不足の理由・原因
日本における人材不足は、様々な要因が複雑に絡み合って生じている深刻な問題です。ここでは、その主要な理由・原因について詳しく解説します。
3.1 少子高齢化の影響
日本は世界でも類を見ないスピードで少子高齢化が進んでいます。生産年齢人口の減少は労働力供給の縮小に直結し、人材不足の大きな要因となっています。厚生労働省の統計によると、2022年の生産年齢人口(15~64歳)は7,450万人と、1995年のピーク時と比べて1,700万人以上も減少しています。この傾向は今後も続き、人材不足はさらに深刻化すると予想されています。
3.2 景気回復による求人数の増加
景気が回復すると、企業の業績が向上し、新たな事業展開や既存事業の拡大に伴い、求人数が増加します。特に、IT業界や建設業界などでは、景気回復の影響を大きく受け、人材需要が急増しています。一方で、供給が追い付かず、人材不足が深刻化している状況です。求人倍率は景気の動向を反映する指標の一つであり、近年上昇傾向にあることから、景気回復が人材不足の一因となっていることが分かります。
3.3 ミスマッチの発生
人材不足は、単に求人数が求職者数を上回っているという量的側面だけでなく、求める人材と求職者の間にミスマッチが生じているという質的側面も大きな問題です。具体的には、以下の2つのミスマッチが挙げられます。
3.3.1 求職者と企業の求めるスキルのずれ
デジタル化の進展に伴い、ITスキルやデータ分析力など、高度な専門スキルを持つ人材の需要が高まっています。しかし、教育機関や企業内での人材育成が追い付いておらず、企業が求めるスキルを持つ人材が不足している状況です。経済産業省の調査によると、IT人材の不足は深刻化しており、2030年には最大79万人が不足すると予測されています。
まとめ
新卒の平均給与は上昇傾向にあり、職種や地域によって差が見られます。同時に、有効求人倍率の上昇からもわかるように、企業は深刻な人材不足に直面しています。少子高齢化や景気回復の影響に加え、求職者と企業の間のスキルや価値観のミスマッチも人材不足の一因です。
企業は、働き方改革を進め、ワークライフバランスを実現できる環境を整備することで、求職者にとって魅力的な職場づくりに取り組む必要があるでしょう。